大判例

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札幌高等裁判所 昭和38年(ラ)23号 決定

抗告人 大野俊男(仮名) 外一名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は「申立人大野一男、同大野正男からの釧路家庭裁判所昭和二八年(家)第二七五号遺産分割申立事件について、同裁判所は昭和三八年三月一九日付をもつて遺産分割の審判をなしたが、右審判において相続財産とされた不動産は、被相続人大野マチの所有ではなく、抗告人らの固有財産である。原審判は事実の認定を誤つているから、これを取り消し、事件を釧路家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求める。」というにある。

一件記録によれば、抗告人ら及び相手方らは、亡大野マチ(昭和二八年二月三日死亡)の共同相続人であるが、右事件の申立人大野一男、同大野正男から提出された遺産目録記載の不動産全部につき、抗告人らはこれを自己の固有財産であると主張し、遺産の範囲につき争いがあつたところ、原裁判所は審判手続において事実の審理を遂げ、これを亡大野マチの所有に属したものと認定して相続財産の範囲を確定したうえ、分割の審判をなしたものであることが明らかである。

家庭裁判所が遺産分割の審判をなすに際し、相続財産の範囲に争いのある場合、これを確定するための審理をなすことができるのは原審判の説示するとおりである。しかして記録を精査するに、原裁判所が前記不動産を相続財産に属すると判断したのは相当であつて、これにつき違法不当の点は見出せない。

更に、原裁判所は鑑定人清野一に相続財産の鑑定をなさしめ、分割の時を標準としてその価格を算定し、建物につき一部改築修理された部分は相続開始時の現況に還元評価したうえ分割時の時価を勘案して再評価し、これを各相続人の法定相続分に応じ、民法第九〇六条に従い各相続人の住所、職業、年齢、相続財産の所在場所、その利用状況その他一切の事情を考慮して家事審判規則第一〇九条に則り遺産の現物を一部の相続人に取得せしめ、その者には他の相続人(現物を取得する者についても相続分に足りない者を含む)に債務を負担せしめる方法により分割を命じたのであり、その分割の方法は誠に相当であつて非違あるを見ない。

さすれば原審判は相当であつて本件抗告は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 和田邦康 裁判官 田中恒朗 裁判官 藤原康志)

参考 原審(釧路家裁 昭和二八(家)二七五号 昭三八・三・一九審判認容)

申立人 大野一男(仮名) 外一名

相手方 大野俊男(仮名) 外七名

主文

一、本籍釧路市○○○町○○番地被相続人大野マチの遺産を次のように分割する。

(一) 別紙目録第一記載の宅地および第三記載の家屋をいずれも相手方大野俊男、同大野サキの共有としその持分を各二分の一とする。

(二) 別紙目録第二記載の宅地を相手方村田ミチ、同大野マリ、同大野イツ子、同大野昌男、同大野典男、同大野実の共有とし、その持分を相手方村田ミチ二分の一、他の五名各一〇分の一とする。

(三) 相手方大野俊男は申立人大野一男に対し五三万九、〇五三円を、同村田ミチに対し五万二、一四三円を、相手方大野サキは申立人大野正男に対し五三万九、〇五三円を、相手方大野マリ、同大野イツ子、同大野昌男、同大野典男、同大野実に対し各一万〇、四二九円を支払え。

二、本件審判費用中、鑑定のために要した金五、〇〇〇円はこれを二五分しその四ずつを申立人大野一男、同大野正男、相手方大野俊男、同大野サキ、同村田ミチの負担とし、その一つずつを相手方大野マリ、同大野イツ子、同大野昌男、同大野俊男、同大野実の負担とし、その余の費用は各自弁とする。

理由

一、申立の趣旨および原因

申立人等は被相続人大野マチの遺産を法律上適正に分割することを求めその原因として右大野マチは昭和二八年二月三日死亡し、その相続人は申立人等および相手方等の一〇名である。被相続人は当時別紙目録第一ないし第三記載の不動産を所有しており、申立人等および相手方等の間に右遺産分割の協議が調わないので法律上適正な分割の審判を求めると述べ、それに対し相手方大野俊男、同大野サキは右不動産は相手方大野俊男が金を出して買つたもので右大野マチの遺産ではない、従つて右分割の申立には応じられないと述べた。

二、遺産について

本件のように遺産の範囲について当事者間に争ある場合に、家事審判手続で遺産の範囲を確定し得るか否かについては積極、消極両説のあるところであるが、家庭裁判所が遺産の分割を適正に行うがためには争ある遺産の範囲を確定することは、当然の前提として必要なことであり、この点から当裁判所は積極説を正当と考えるものである。(もつとも積極説の立場に立つても遺産分割の審判手続において争ある財産を遺産に属するものと判定して分割の審判をしても右審判は前提となつた相続財産の範囲につき既判力を有せず、別に民事訴訟をもつてその帰属を争うことができ、場合によつては右審判における判断と民事訴訟によりなされた判断とが相反するといつた好ましくない結果を招来するおそれがあり、従つて遺産であるかどうかにつき、さきに民事訴訟により判断を受け、これが確定をまつて分割の審判をするのが却つて訴訟経済に合し便宜である所以はこれを認めるにやぶさかでなく、従つて本件当事者にもこの方法をとるよう勧告してみたが当事者はこれに応じなかつた。しかしこの一事をもつて遺産分割の審判を拒否することはできないものと考える。)

そこで大野マチの遺産について考えてみる。

本件記録中の不動産登記簿謄本三通(内二通は同じ内容)、同抄本四通、家屋台帳謄本二通(二通とも同じ内容)、申立人大野一男、同大野正男、相手方村田ミチ、同大野俊男、参考人藤田ミサ、同草野カヨ各審問の結果を総合するに、被相続人大野マチの遺産の主なるものは同人の所有名義となつている別紙目録第一ないし第三記載の各不動産であり、その外に若干の衣類、寝具、その他家事用動産の存することが認められる。もつとも相手方大野俊男、同大野サキは、別紙目録記載各不動産についてはいずれも相手方大野俊男自身が購入取得したもので登記簿や台帳の名義のみ便宜上右大野マチとしたが、実質は同人の所有に属するものではないと主張するところ前記各審問の結果認められる右不動産購入の事情等に照らし、右主張に副う相手方大野俊男、同大野サキの各審問の結果だけではいまだ右事実を首肯するに足りない。そして遺産の一部と認められる前記動産類については審判当時既に散逸していてその内容、価額ないし現実の取得者が明らかでないので本件分割の審判にあたつてはこれを無視する外はなく従つて別紙目録第一ないし第三記載の各不動産のみを遺産分割の対象とする。

鑑定人清野一の鑑定書ならびに同鑑定人審問の結果による本件遺産である前記不動産の価額は次のとおりである。(別紙目録第一および第二記載の各宅地は分割時の時価により評価し、同第三記載家屋は相続開始後、一部改築された部分があるので一応相続開始時の現況に還元評価したうえ、これに分割時の時価を勘案し再評価した。)

(一) 釧路市○○○町○○番地の六

宅地一一二坪五合(別紙目録第一記載物件)

右の価額一八〇万〇、〇〇〇円(坪当り一万六、〇〇〇円ただし更地としての評価)

(参考) 昭和二八年二月頃の時価二七万〇、〇〇〇円坪当り二、四〇〇円

(二) 同町同番地の一六

宅地一一六坪(別紙目録第二記載物件)

右の価額九七万三、八二〇円(坪当り八、三九五円ただし賃借権設定せるため更地としての評価の二七パーセント減)

(参考) 昭和二八年二月頃の時価一六万九、三六〇円、坪当り一、四六〇円

(三) 同町同番地の六所在家屋番号一六〇

(イ) 木造亜鉛メツキ鋼板ぶき平家建店舗兼居宅一棟建坪三六坪

(ロ) 木造亜鉛メツキ鋼板ぶき平家建物置

一棟建坪 四坪五合(別紙目録第三記載物件)

右(イ)(ロ)各家屋の価額合計四六万〇、五〇〇円

ただし、昭和二八年二月頃の時価は(イ)(ロ)合して三〇万〇、〇〇〇円位と認められ、これに全国木造家屋建築費指数(昭和三〇年三月を一〇〇とすれば、昭和二八年三月八四、昭和三七年九月一七〇・二)および日銀調査一般卸売価額指数(昭和三〇年三月を一〇〇とすれば、昭和二八年三月一〇一、昭和三七年九月一〇五・六)を勘案し、昭和二八年三月を一〇〇とした昭和三七年九月の右両者の折衷指数一五三・五を乗じて再評価した。ちなみち、昭和三八年二月頃の建物現況による評価額が九二万八、〇〇〇円、取調にかかる見積書一通、請求書四通、領収書一四通により認定できる改造費が四〇万〇、〇〇〇円ないし四五万〇、〇〇〇円であること等勘案すれば大体妥当な評価と考えられる。

そうすると、前記(一)ないし(三)の価額合計は三二三万四、三二〇円であつて、本件においてはこれが相続財産の価額となるわけである。

三、相続人、相続分および相続財産配分額の算定について

本件記録中の各戸籍謄本(除籍謄本を含む)によると、野口チヨの相続人および各相続人の相続分は左のとおりで、この点については当事者間に争はない。

(1) 申立人大野一男(被相続人の長男)相続分六分の一

(2) 同大野正男(被相続人の四男)同六分の一

(3) 相手方大野俊男(被相続人の五男)同六分の一

(4) 同大野サキ(被相続人の二女)同六分の一

(5) 同村田ミチ(被相続人の三女)同六分の一

(6) 同大野マリ(被相続人の二男亡大野次男の長女。代襲相続人)同三〇分の一

(7) 同大野イツ子(右次男の二女。代襲相続人)同三〇分の一

(8) 同大野昌男(右次男の二男。代襲相続人)同三〇分の一

(9) 同大野典男(右次男の三男。代襲相続人)同三〇分の一

(10) 同大野実(右次男の四男。代襲相続人)同三〇分の一

次に相続財産の価額は前記のとおり三二三万四、三二〇円であるから各相続人に対する配分額は、申立人大野一男、同大野正男、相手方大野俊男、同大野サキ、同村田ミチ各五三万九、〇五三円、同大野マリ、同大野イツ子、同大野昌男、同大野典男、同大野実各一〇万七、八一一円となる。

なお、民法第九〇三条に定める共同相続人中の特別受益についてはこの種贈与の有無ないし価額が明確でないので、相続財産価額への加算および各相続分の算定については考慮しないこととした。

四、分割の計算について

そこで以上認定の事実に、申立人等および相手方等の住所、職業年齢、前記不動産の所在場所、その利用状況その他一切の事情を考慮した結果別紙目録第一記載の宅地、同第三記載の家屋はこれを相手方大野俊男、同大野サキの持分各二分の一の共有とし、同目録第二記載の宅地は相手方村田ミチ、同大野マリ、同大野イツ子、同大野昌男、同大野典男、同大野実の共有として、その持分は相手方村田ミチは二分の一、他の五名は各一〇分の一と定めるように分割するを相当と考える。

そうすると各相続人において分割を受けた前記各不動産に対する持分の価額ならびにこれと各相続人の前記相続財産につき配分を受くべき価額との過不足は次のとおりである。

(相続人)    (持分で分割を受けた価額) (配分額との過不足)

(1) 申立人 大野一男         なし (不足) 五三九、〇五三円

(2) 同   大野正男         なし (不足) 五三九、〇五三円

(3) 相手方 大野俊男 一、一三〇、二五〇円 (超過) 五九一、一九七円

(4) 同   大野サキ 一、一三〇、二五〇円 (超過) 五九一、一九七円

(5) 同   村田ミチ   四八六、九一〇円 (不足)  五二、一四三円

(6) 同   大野マツ    九七、三八二円 (不足)  一〇、四二九円

(7) 同   大野イツ子   九七、三八二円 (不足)  一〇、四二九円

(8) 同   大野昌男    九七、三八二円 (不足)  一〇、四二九円

(9) 同   大野典男    九七、三八二円 (不足)  一〇、四二九円

(10) 同   大野実     九七、三八二円 (不足)  一〇、四二九円

そこで前記の如く別紙目録記載各物件を分割するとともに相手方大野俊男には申立人大野一男に対し五三万九、〇五三円、同村田ミチに対し五万二、一四三円の各支払い債務を相手方大野サキには申立人大野正男に対し五三万九、〇五三円、相手方大野マリ、同大野イツ子、同大野昌男、同大野典男、同大野実に対し各一万〇、四二九円の各支払い債務をそれぞれ負担させ、もつて現物の分割にかえるのを相当と考えた。

なお、審判費用の負担につき非訟事件手続法第二六条、第二七条、第二九条、民事訴訟法第九三条を適用した。

よつて主文のとおり審判する。

別紙 目録

第一

釧路市○○○町○○番地の六

宅地 一一二坪五合

第二

同町同番地の一六

宅地 一一六坪

第三

同町同番地の六所在家屋番号一六〇

木造亜鉛メツキ鋼板ぶき平家建店舗兼居宅一棟建坪三六坪

木造亜鉛メツキ鋼板ぶき平家建物置一棟建坪四坪五合

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